嫡出子と非嫡出子の違いについて
概略としては、嫡出子は結婚している夫婦の間に生まれた子供で、非嫡出子は結婚していない内縁関係の夫婦の間に生まれた子供になります。詳細に関しては、以下をご参照下さい。
関連キーワード
嫡出子、推定される嫡出子、推定されない嫡出子、非嫡出子、準正による嫡出子の身分の取得、認知子、私生子、庶子、離婚又は婚姻取消し後300日以内に生まれた子ども
嫡出子(ちゃくしゅつし legitimate child ⇔対義語:非嫡出子)
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子どものことを指します。
嫡出子は
(1)推定される嫡出子
(2)推定されない嫡出子
に分類されます。
1. 推定される嫡出子
推定される嫡出子とは、民法第772条より以下のようになっています。
民法第772条(嫡出の推定)
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
※ 200日目は含まない。
※ 300日目を含む。
※ 懐胎:かいたい。子をはらむこと。身ごもること。
また、あくまで推定であり、夫の子でない場合もあります。
そのため、夫は、民法第774条より子が嫡出子であることを否認することができます。
民法第774条(嫡出の否認)
1 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
但し、勝手に子が嫡出子であることを否認できるのではなく、民法第775条による、子または親権を持つ母に対する嫡出否認の訴え、すなわち、裁判上の訴えよらなければ、否認できません。
民法第775条(嫡出否認の訴え)
1 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
嫡出否認の訴えは、民法第777条により、夫が子が生まれたことを知ってから、1年以内に提起しなければなりません。
民法第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
1 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
親子の関係は、上述したような父子関係だけではなく、母子関係にもありますが、母子関係の証明は、懐胎(妊娠)・分娩課程という事実によって、必然的・客観的に親子関係が確定されます。
立法趣旨と現在の例・学説
現行民法第772条は、明治民法第820条を踏襲し、父親の推定については、フランス民法と同じ懐胎主義(婚姻中に懐胎された子をもって夫の子と推定する)を採用し、立法されています。
当時の婚姻道徳を信頼し、且つ、民法第四編第五編(親族、相続)が定められた明治31年における医学的統計(当時の医科大学の意見によれば、懐胎の最短期は28週すなわち196日ないし30週、最長期は300日を超えるとされた)に基いて制定されました。
しかしながら、第2次世界大戦以前は、婚姻の慣行として子どもが生まれるまで婚姻の届出をせず、内縁関係にとどまるという場合も多く、このような場合は、父母は法律上の婚姻をしているにも関わらず、その期間に生まれた子どもが一時的に「嫡出でない子」として処遇される結果となっていました。
そのため、判例・学説は、懐胎主義から脱し、父母の婚姻中に出生した子をもって嫡出子とする出生主義によることになっています。尚、イギリス、アメリカ、ドイツなどは、婚姻中に出生した子の父は母の夫とする出生主義を採用しています。
参考:婚姻終了後でも嫡出子
嫡出子は、婚姻関係から生まれた子どもであって、婚姻中に出まれた子どもとイコールではありません。
例としては、出生前に父が事故死した場合で、婚姻終了後に生まれた子どもであっても、当該父母の子どもであることが挙げられます。
2. 推定されない嫡出子
民法第772条により、授かり婚(できちゃった婚)の場合、婚姻届を出した日から200日以内に生まれた子どもは、「推定されない嫡出子」になり、「推定される嫡出子」となることができません。嫡出子ではあるが、夫の子どこであるとの推定を受けません。
推定されない嫡出子の場合、夫が自分の子どもでないと思った場合、厳格な要件が要求される「嫡出否認の訴え(民法第775条)」によらず、「親子関係不存在確認の訴え」を行えばいいことになります。
嫡出否認の訴え
「夫(子供から見れば父親)」が「子どもが生まれたことを知ってから1年以内」という限定された期間でしか、訴えを起こすことができません。
親子関係不存在確認の訴え
上記の縛りがなく、訴える利益のあるものであれば、いつでも、誰でも、訴えることができます。そのため、遺産相続時に争いがあった場合に、「推定されない嫡出子」は、当該親子関係不存在確認の訴えにより、相続権を失う可能性があります。
非嫡出子(=婚外子 こんがいし)
非嫡出子(ひちゃくしゅつし illegitimate child)とは、法律上の婚姻関係がない男女を父母として生まれた子どものことを指します。
民法第779条により、嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができます。
民法第779条(認知)
1 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
非嫡出子は、原則として母の戸籍に入り、父の名は記載されません。
また、認知されていれば、相続権がありますが、財産の法定相続分が嫡出子の半分となるなど、嫡出子と比較し、不利益を被る可能性があります。認知がない場合、相続人になる資格がないため、相続権は認められません。
民法第900条(法定相続分)
1 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
外国人母と日本人父の間に生まれた非嫡出子に認知だけで日本国籍が認められない(国籍法3条1項)ことについて、2008年6月4日最高裁大法廷は「合理的な理由のない差別だ」として、憲法14条1項(法の下の平等)違反と判決されました。
その後、2009年の国籍法改正により、既に子どもが出生している場合でも、まず日本人父が子どもの「認知届」を提出し、その後、国籍取得届(国籍法第3条第1項に基づく届出)を行うことにより、日本国籍を取得できるようになりました。
尚、法律上の差別ではありませんが、嫡出子は戸籍に「長男・長女」とに記載されますが、非嫡出子は単に「男・女」と記載されるという表記上の区別があります。住民票にも、同様な問題があり、1995年3月1日から、子の続柄は実子・養子・嫡出子・非嫡出子すべて「子」に統一されるようになりました。
準正による嫡出子の身分の取得
生まれたときは、非嫡出子であっても、その後父母が結婚した場合、準正により嫡出子の身分を取得することになります。
準正とは、非嫡出子が嫡出子の身分を取得することをいい、民法第789条により以下の2つの方法(認知後結婚・結婚し認知)が定められています。
民法第789条(準正)
1 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
2 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
3 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。
認知子(にんちし)
認知子とは、嫡出子ではないが、法律的に父親から父子関係を認知されている子どものことを指します。
内縁関係の夫婦の子どもで、認知を受けていない場合は、法律上の父子関係が認められず、相続権などが得られない場合があります。
尚、母子関係の証明は、懐胎(妊娠)・分娩課程という事実によって、必然的・客観的に親子関係が確定されます。
私生子・庶子から非嫡出子へ
1942年(昭和17年)の民法改正前までは、婚姻外の子どもは、非嫡出子ではなく、以下のように民法上分類されていました。しかし、差別の原因になったため、「非嫡出子」に名称が統一されました。
(1)庶子:婚姻外子で、父親に認知された子ども
(2)私生子:婚姻外子で、父親に認知されない子ども
離婚又は婚姻取消し後300日以内に生まれた子どもについて
民法第772条により、離婚から300日以内に生まれた子どもは、民法第772条第2項により、離婚前の夫の子どもとして推定されることとなっています。
法務省民事局通達(平成19年5月7日法務省民一第1007号)により、2007年5月21日から、離婚又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いが、以下のように変更されています。
医師が記載した推定される懐胎の時期等が記載された「懐胎時期に関する証明書」により、離婚等後に妊娠したと認められ、民法第772条の推定が及ばないものとして、母の非嫡出子又は離婚後に結婚した夫を父とする嫡出子での出生届の届出が可能となっております。
すなわち、離婚後妊娠に限り、離婚後300日以内でも、前夫以外を父親とする出生届が可能になったことになります。
戸籍の記載についても、「「懐胎時期に関する証明書」が添付された届出」が受理されると、家庭裁判所の審判無くして、子の身分事項欄には出生事項とともに「民法第772条の推定が及ばない」旨が記載されることになります。
※ 正常出産の統計による妊娠期間は280日±15日であり、WHO(世界保健機構)が認定した正常妊娠持続日数280日を参考にすると、離婚後20日以内に妊娠した事例のみ、当該通達の恩恵を受けることになります。しかしながら、これに該当する事例は少ないと想定されます。