Q. 入社採用時の必要提出書類(戸籍・住民票・住民票記載事項証明書)を教えて下さい。

判例/法令/用語解説

Q. 入社採用時の必要提出書類(戸籍・住民票・住民票記載事項証明書)を教えて下さい。


概要

1.応募時/入社時提出書類一覧
2.戸籍謄本・住民票など本籍が分かるものを提出させてもいい法的根拠はあるのか
3.提出をしない社員に対してはどうすべきか
4.入社時提出書類拒否での解雇判例

応募時/入社時提出書類一覧

入社の際に従業員が、提出する書類は以下の15種類程度になると思われます。また、1~5については、採用前の応募時に提出することが多い書面です。

応募時提出書類

1.自筆の履歴書提出日前3ヶ月以内に撮影した写真貼付
2.学業成績証明書
3.卒業証明書新規学卒者は、卒業見込証明書
4.職務経歴書職務経歴がある者のみ
5.健康診断書健康診断書の提出に関しては、採用前か入社時か就業規則によって規定はそれぞれになっているようです。

入社時提出書類

6.諸事項届出書(1)個人情報同意書
個別に個人情報同意書として署名捺印を取る場合もあれば、誓約書に含めて記載したり、就業規則において包括的な同意を取るために、省略する場合もあります。
(2)扶養控除等(異動)申告書
(3)給与振込同意書(依頼書)
(4)その他会社が必要とする書類
7.雇用契約書雇用契約書は、採用の際に、労働条件を明確に書面にて提示し、全ての従業員において、必ず締結しなければならないものです。
特に、正社員契約とは区別した、少し条件が悪くなるパートタイマー、アルバイト、嘱託社員、契約社員などのいわゆる特殊契約の従業員については、社員とは区別して設定する労働条件の項目を、特に強調して明示することで社員との労働条件の差別化を明確にすることが必要です。具体例としては、休日、給与形態、賞与の支給の有無、退職金の支給の有無などになります。
8.住民票記載事項証明書参考:住民票記載事項証明書の説明・取得方法についてはこちら
9.各免許証明書
10.身元保証書身元保証書は、万が一、従業員がしてしまった損害等に対しての戒めになります。従業員の行為で会社が損害を受けた場合において、本人に弁済能力がないとき本人に代わって身元保証人が会社に対して損害賠償するというものです。特に期限が明記されていない場合、有効期間は3年間になっています(身元保証に関する法律より)。最近は、身元保証人の印鑑証明書を添付させるケースも増えています。
参考:身元保証に関する法律
11.誓約書誓約書は、就業規則をはじめとした会社のルールを誠実に守り、誠実勤務することを誓約させるもので、万が一、従業員が何かを起こしてしまった場合、懲戒処分や損害賠償もありえることを記載し、戒めとしてるケースが多くなっています。
12.源泉徴収票当年において前職があり給与所得がある者のみ
13.年金手帳加入する者、場合によっては、写しでも可
14.雇用保険被保険者証前職のある者
15.通勤費の申請書通勤経路を記載した届出書

戸籍謄本・住民票提出の法的根拠

住民票に関しては、住民票ではなく、本籍地記載省略した「住民票記載事項証明書」の提出を求めるのは、本人確認、通勤費支払いの根拠、労災の通勤災害、住民税の源泉徴収支払先等の会社内の事務処理及び事実確認のために、一般的と考えられます。
また、「住民票記載の住所」と「実際の居所」が異なる場合には、理由を記載して頂き、合理的な理由があれば、承認する方法が望ましいと考えられます。
参考:住民票記載事項証明書の説明・取得方法についてはこちら

戸籍謄本に関しては、その取り扱いには注意が必要です。厚生労働省からの通達(昭50.2.17基発83号、婦発83号、平9.2.21基発105号)によれば、入社前に提出を求めることはできませんが(採用選考時の提出は違法)、入社後であれば、もし本当にその情報の必要性があればそのときに限って提出を求めることができます。例えば、労働者の権利義務確認のために必要な時点(冠婚葬祭等特別給付があるとき等)に、本人にその内容・目的を十分説明の上、提出を求め、確認後速やかに返却するようにします。入社後であっても画一的に提出を求めることは不適切と考えられます。
参考:昭50.2.17基発83号、婦発83号、平9.2.21基発105号

また、職業安定法に関する厚生労働大臣指針では、戸籍に関しては、特別な職業上の必要性が存在して、他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合は、提出を求めても構わないと記載されています。もちろん、個人情報の保管または使用に関しては、本人の同意を得た上で厳重に扱う必要があり、社会的な差別の原因となるような以下の事項については入手が制限されています。
「戸籍謄本・抄本の提出、身元(家庭)調査、家族の職業・家族状況、家族の地位、学歴、収入、資産、住居状況、宗教、支持政党、生活信条、尊敬する人物、思想、本籍地・生まれ育った場所など」
しかしながら、センシティブな個人情報の収集について、一切禁止されているわけではなく、特別な職業上の必要がある場合で収集目的を示し本人から収集する場合は認められています(身元確認が極めて必要な業務・金銭を大量に取り扱うなど)。

尚、従業員名簿等、風俗営業(風俗店以外に、ゲームセンター、麻雀店、キャバレー、パチンコ店など)を行う場合は接客従業者の名簿を作成及び保存する義務があります。 名簿には以下の事項を記載する必要があります。
「氏名/生年月日/本籍地/住所/性別/従事する内容/入店日/退店日」この名簿は従業員の退職後も3年間保存する義務があります。
その場合は、一般的に、本籍地付きの住民票や戸籍抄本を求められると想定されます。

参考:職業安定法第5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)
参考:職業安定法に基づく厚生労働大臣指針、求職者の個人情報の取扱いについて

提出をしない社員に対してはどうすべきか

前述の所定の必要書類を、正当な理由もないにもかかわらず、会社へ提出しない・決められている期限内に提出できない方は、その人の今後の仕事ぶり、すなわち、当たり前にできていいことが当たり前にできないということを疑問視してもよいと思われます。これらの提出期限として雇い入れ日より2週間以内と設定することが一般的ですが、これには正当な意味があります。労働基準法の解雇予告をしなくていい期間として「試みの使用期間中の14日以内」という規定があります。再三の求めにもかかわらず、誓約書を提出しなかった従業員を試用期間中に解雇した事案において有効である、という判例もあります(名古屋タクシー事件 名古屋地判 昭40.6.7※後述)。従業員生活の基本的なルールとして、使用者の命令に従えないというのは従業員としての不適格性や不誠実性が問われると考えられます。採用後のトラブルを防ぐためにも、前もって提出しない場合の対応処分について、就業規則に定めておくことが望ましいかもしれません。

採用時の必要書類不提出を理由とする解雇判例

名古屋タクシー事件 名古屋地判 昭40.6.7

試用期間中のタクシー運転手が誓約書、家族調書の書類を提出しなかった事案。
(1)誓約書は身元保証も兼ねていること
(2)家族調書は健康保険組合に加入するための書類であること
等が認定され、これらが提出されないことは雇用関係に重大な支障をきたすとして、書類不提出を理由とする解雇を有効とした。

シティズ事件 東京地判 平11.12.16

身元保証書の不提出を理由とする解雇の事案。
(1)当該会社において身元保証書の提出が採用の条件とされていたこと
(2)会社の業務内容が金銭貸付等であることから、横領などの事故を防ぐために、社員に自覚を促す意味を込めて身元保証書を提出させていたこと
等を考慮して、身元保証書の不提出は、従業員としての適格性に疑義を抱かせる重大な服務規律違反または背信行為であるとし、労働基準法第20条但し書きにいう「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇に当るとした。

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