【ニュース】千葉県船橋市職員、住民票の個人情報を探偵に漏洩容疑

住民票ニュース

▼概要

愛知県警捜査2課などは、2012年10月24日、千葉県船橋市の市県民税システムの課税対象者の個人情報や住民票記載の個人情報の内容を不正に漏らしたとして、地方公務員法違反(守秘義務)の疑いで千葉県船橋市市民税課の非常勤職員、江藤ひろみ容疑者(48・千葉県船橋市行田2丁目)を逮捕した。
また、地方公務員法違反(唆し・そそのかし)の疑いで、千葉県鎌ケ谷市の探偵業者、西岡貞人容疑者(49・千葉県鎌ケ谷市東鎌ケ谷1丁目)を再逮捕(既に携帯電話KDDI(au)の契約者情報についても、別の女性から1件1万円で入手していたとして不正競争防止法違反容疑(営業秘密侵害)で逮捕・2012年10月18日に起訴)した。いずれも容疑を認めているという。
2012年10月25日、江藤、西岡両容疑者を送検、裏付け捜査を進めるとともに、動機や経緯を詳しく調べる。
2012年11月8日、愛知県警は、漏えいの見返りに現金を受け取った疑いが強まったとして、加重収賄の疑いで、江藤ひろみ容疑者を勾留期限の2012年11月14日にも再逮捕する方針を固めた。西岡容疑者に個人情報を渡す見返りに、報酬として1件あたり現金数千円を受け取っていたことを認める趣旨の供述をしているという。江藤容疑者は2007年ごろから個人情報の漏えいを始めたといい、これまでに10数万円以上を受け取ったという。2012年11月8日時点で、県警は西岡容疑者も贈賄の疑いで再逮捕する方針。

▼一連の加重収賄容疑

県警による一連の個人情報漏えい事件で加重収賄容疑で逮捕されるのは、以下の2件に次いで3件目となる。
(1)車検証情報を漏えいしたとされる長野県警の警察官
(2)職歴情報を漏えいしたとされるハローワーク横浜の非常勤職員

▼加重収賄罪とは

加重収賄罪は公務員が不正行為をした見返りに賄賂を受け取った場合などに適用され、単純収賄罪より量刑が重い。
公務員が受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪を犯し、さらに請託に応じて特定の職務行為を行ったり、行うべき職務をしなかったりする罪。
刑法第197条の3第1項第2項が禁じ、1年以上の有期懲役に処せられる。
受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪は請託を受けただけで成立するが、実際にそれに応じた職務行為をした場合などに本罪が併せて成立する。

▼江藤容疑者の容疑詳細

愛知県警捜査2課によれば、江藤容疑者の逮捕容疑は2010年8~11月、千葉県船橋市市役所内の職場に設置された端末で、課税対象者の情報や住民票に記載されている情報などを閲覧した上、船橋市内の20代女性の名前と生年月日、50代女性の離婚歴を調べ、西岡容疑者に教えた疑い。
江藤容疑者が西岡容疑者から漏洩の見返りに、情報の項目数などに応じて報酬額は変動する1件当たり数千円の報酬を受け取り、5年に渡って漏洩が続き、これまでに合計数万円程度を受け取っていた可能性もあるとみて、贈収賄容疑での立件も視野に慎重に調べを進め、2012年10月25日に船橋市役所を家宅捜索した。

西岡容疑者の逮捕容疑は、漏洩を唆した疑い。西岡容疑者は江藤容疑者から入手した情報を、近隣の依頼者から請け負った浮気や身辺調査などに活用していたとみられる。江藤容疑者が、閲覧できる個人情報は千葉県船橋市市民61万人分の情報に限られることから、西岡容疑者からの依頼は数十件程度だった可能性がある。

▼藤代孝七船橋市長のコメント

職員が逮捕されたことを受けて、千葉県船橋市の藤代孝七市長ら幹部は、2012年10月24日午後6時半ごろ、市役所で緊急記者会見を開き、「市民の情報の多くを取り扱う市役所でこのような事件が起きたことは誠に遺憾で、市民の皆様に心よりおわびします」と陳謝した上で、「誠に遺憾。驚いている」と話した。
その上で、藤代市長は、「早急に事実関係の詳細を把握し、厳正に対処するとともに、個人情報の適切な管理を徹底し再発防止に全力で取り組んでいきたい」と述べました。

▼江藤容疑者の勤務状況と業務内容

千葉県船橋市によると、江藤容疑者は2003年4月1日から船橋市市役所の市民税課に勤務。税金に関する各種証明書・納税証明書の発行業務を担当。
市民税課には職員40人、非常勤職員8人の計48人が勤務。窓口業務は昼休みの時間などを除き、非常勤職員3人が担当していた。
江藤容疑者は、同課の非常勤職員の中で最も長く9年以上のベテランで、これまで無断欠勤もなく、業務でのトラブルもなかったという。窓口業務を担当し、課内の業務や情報管理体制などについて精通していたという。
2012年10月22日からは体調不良を理由に休んでいた。船橋市には、逮捕前に江藤容疑者について愛知県警から照会があったが、情報を漏らした相手とされる西岡容疑者が既に逮捕されていることから、通常通り勤務をさせていた。

船橋市によると、江藤容疑者は、市民の住民票(名前や住所、前住所)を閲覧できる「住民記録システム」のほか、課税対象者の所得額、納税状態や勤務先が分かる「市県民税システム」端末にもアクセスすることが可能だった。浮気や身元の調査などの依頼内容に応じて、職場端末から必要な情報を抜き出していた。また、愛知県警は市県民税システムの個人情報も漏らした疑いがあるとみている。
名字や勤務先といった断片的な情報から、特定人物の氏名と生年月日を割り出すことも可能だったという。
尚、システムは独自で、全国の自治体を結ぶ住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)とはつながっておらず、他の自治体の情報を閲覧することはできない。

▼船橋市の情報管理体制

愛知県警は江藤容疑者が、市役所の情報管理の不備を悪用し、別の職員のログインした端末で、別の職員の閲覧に見せ掛けて、不正な情報取得を繰り返していたとみて詳しく調べている。

市民税課課内にある端末31台のうち窓口に設置されているのは2台。
端末は、職員が職員コードとパスワードを入れると、住民票にある情報と課税・納税に関する市民の個人情報を閲覧することができる。
市民税課では、全職員がそれぞれパスワードを持っているが、それぞれの情報を見る際に個別にパスワードなどを入れる必要はなく、職員1人のパスワードで課内の端末を何台も立ち上げることがあり、端末は一度立ち上げると、誰が閲覧したかの履歴を残すシステムにもなっていないため、誰が使ったか分からないという。

船橋市の情報セキュリティーに関する基準では、個人情報を扱う端末操作の際は、担当職員(操作する人)が替わるごとに、異なる職員番号とパスワードでログインし直すよう定められているが、通常は、早く出勤した職員が端末を起動させ、その後は、形の上では終了まで、他の職員もログインし直すことなく、その職員が使ったことになっていた。
市民税課では、過去に上司らが職員を注意していたが、「窓口業務は立て込むため、その基準が守られていなかった」と説明した。
こうした杜撰なシステムの運用は船橋市の窓口業務では広く行われていたといい、システムへのアクセス記録からは操作者をたどるのが難しい状態だった。

▼江藤容疑者と西岡容疑者の知り合った経緯

江藤容疑者2001年頃、当時の夫の浮気調査などを依頼した際に、顧客として、千葉県で浮気調査を専門とする探偵会社を営んでいた西岡容疑者と知り合ったという。西岡容疑者は調査にあたり、結果を報告したが、その後も江藤容疑者は相談を継続していた。
西岡容疑者の供述によると、江藤容疑者は2003年に同市の非常勤職員に採用された後、2007年ごろに「役所に就職し、住民の住所や勤務先、所得年収、家族構成などの情報を知り得る。探偵の仕事の役に立つかもしれない」と電話で持ち掛け、2007年ごろから漏洩が始まったとみられる。県警は、個人情報取得のための情報源を探偵業者が必要としていることを江藤容疑者が認識していたとみている。

▼個人情報の漏洩事件の全体像

愛知県警察本部は、2011年秋以降、戸籍や車の所有者・車両情報、携帯電話の契約者情報、職歴などの、個人情報の漏洩事件の摘発を進めており、携帯電話の契約者の情報を、販売店の従業員から不正に引き出したとして、2012年9月、西岡容疑者を逮捕し、その際に押収した資料から、今回の事件が発覚。自治体職員が住民基本台帳の情報を営利目的で漏らしたとして逮捕されるのは極めて異例。
今回の市役所職員の逮捕で、個人情報の闇市場への供給源が地方自治体職員にまで広がっていたことが明らかになり、「個人情報ビジネス」の根深さが浮き彫りになった。
尚、愛知県警による一連の個人情報漏洩事件では、警察官やハローワーク職員といった公務員のほか、漏洩ルートを束ねて個人情報の取引を仲介する愛知県内の「情報屋」が各種情報を集約していたとされるが、今回は関与していないという。

▼愛知県警が船橋市を家宅捜索

2012年10月25日午前10時過ぎ、船橋市役所に、愛知県警の捜査員13人が家宅捜索に入った。
江藤容疑者が勤務する市民税課を中心に調べ、江藤容疑者による漏洩で悪用されたとされる端末を使い、住民基本台帳の情報管理システムを閲覧する手順などを確かめた。段ボール8箱分の書類などを押収した。市民税課では課長らが事情を聴かれたという。
同僚職員は「同じ職場でこんな事件が起こるとは」と動揺した様子だった。

▼10月25日船橋市臨時会議

2012年10月25日午後0時45分から、船橋市は部長級以上の職員33人を集めた臨時部長会を開き、藤代孝七市長が「個人情報の管理がずさんと指摘を受けている。公務員としての守秘義務を職員に徹底すること」を指示し、同日からは、職員は証明書を発行するパソコン端末を使う際、端末の使用職員が変わるたびにそれぞれのIDとパスワードで、ログインし直すよう改めた。
また、松戸徹副市長は臨時会議で、2012年10月25日の愛知県警による家宅捜索に触れ、「捜索が(役所に)入るのは異常なこと。仕事に倫理観を持つよう心構えを」と強調した。
市民税課の端末では、市民約61万人分の住所などの情報や、約30万人分の課税の納付状況などを確認できるが、これまでは情報にアクセスした職員の記録が確認できない状況だった。

▼船橋市情報セキュリティ委員会の開催

2012年10月31日、千葉県船橋市により、再発防止策を協議する第1回の「船橋市市情報セキュリティ委員会(船橋市役所)」(最高統括責任者、松戸徹・副市長)を開かれた。同委員会は、市情報セキュリティ対策基準に基づき、問題が生じた際に招集されるもので、情報管理に携わる幹部職員ら12人が出席して非公開で開かれた。
同委員会冒頭で委員長の松戸徹副市長が、「信頼が基本の行政で、あってはならない事件。再発防止が信頼回復の第一歩だ」と述べた。今後の対応について市は「新たな研修も検討し、同じ職場で長期に窓口業務を担当している職員の配置転換なども考えていきたい」としている。

▼同委員会で上げられた問題点等

【問題点1】市民税課では、端末操作者が変わるたびにパスワード入力する内規が守られていなかった。江藤容疑者は、市民税課で別の職員がログインした端末を操作していた。

【調査1】2012年10月中に113課の端末約700台の管理状況の実態調査実施。結果は、2012年11月中旬頃にまとめ、再度委員会を開く。

【解決策1-1】2012年11月中に各所属長を対象に情報セキュリティーについて臨時の職員研修を実施。研修を受けた所属長は、各職場で部下に対して同様の研修を実施。
【解決策1-2】市情報セキュリティ委員会では、操作記録を残すためにも、職員が端末を操作する場合は、市の内規「情報セキュリティ対策基準」に基づき、それぞれの番号でログイン、ログオフをするよう各所属長の責任で順守徹底を指示。
【解決策1-3】職員が使う端末の画面には、パスワード入力画面に注意喚起メッセージを表示、情報処理に注意を払うよう呼びかけることを決めた。
【解決策1-4】研修の一環として、他の自治体で起きた事例もメールで配信実施予定。

▼追起訴

2012年11月28日、名古屋地検は、加重収賄罪で船橋市非常勤職員の江藤ひろみ容疑者(48)を追起訴した。
また、2012年11月28日、名古屋地検は、贈賄罪で探偵業、西岡貞人容疑者(49・千葉県鎌ケ谷市)を追起訴した。

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